不帰ノ嶮(かえらずのけん)
不帰ノ嶮。白馬、天狗の頭〜唐松岳までの険しい岩稜
下ノ廊下、大キレット、ジャンダルムとそれ相応な名前が付いている場所を通過した私にとって、
不帰ノ嶮という名前は物凄く興味をそそられるのですよ。
是非とも歩いてみたかったので行ってきました。
注意
※大キレットほどではありませんが、滑落、落石の危険地帯です。
十分に注意して通行してください。
2016/7/30
16:00 : 鈴鹿出発
中津川ICから国道19号へ
太平洋側は湿った空気が入っているおかげで、木曽谷は猛烈な夕立でした。
(それでも、帰宅時の長良川土手でくらった雨よりはマシ)
21:00 : 八方第5駐車場着
無料駐車場に駐車となると、コンビニと温泉がすぐ近くにある第2駐車場がベストとは思うけど、
車中泊となると話は別。絶対に五月蠅い。
第5だと第2から100m遠い程度で、利便性はそこまで悪くないし、トイレもちゃんとあるし、
車中泊するなら第5の方がいいかと。
コンビニでビール買った帰り、タクシーが停まっていたので、明日は何時頃からタクシーは営業しているか聞いてみたら、
予約すれば24時間OKとのこと。
4時に来てもらう事に。
(落石多発地帯の大雪渓に暗い中突入するのは自殺行為。大雪渓に着く頃に明るくなるとなるとこのくらいの時間がいいかと)
7/31
4:00 : タクシーで3800円(深夜なので2割増し。普通なら3000円程度)払って猿倉へ
タクシーの運ちゃん曰く、白馬は名物が何も無いつまらない場所っすよ!!との事。
そういえば桃鉄でも収益率の低いスキー場だけの物件駅…。
4:20 : 猿倉出発
5:20 : 白馬尻到着
今年は雪が少ない。
大雪渓も同じで、まだ7月末だってのに雪渓下部はガタガタ。
前に来た時とは大違い。
雪渓の状態は日々変化するので、どこから雪渓へ乗るかは己の判断。
ここらならもう乗っても大丈夫だろうと、アイゼン装着です。
雪渓のど真ん中に深さ5mはあろうクレバス。
中からミシミシと氷が割れる不気味な音がしていました。
崩落しないとも限らないので、接近して撮影するのはあくまで自己責任…。
相変わらず杓子岳からカラカラと石が降ってくる。
ここは落石多発地帯だってのに、イヤホンで音楽聴きながら登ってるヤツもいました。
山で耳を封じて行動するのは自殺行為だと私は思いますよ。
↓の写真みたいに、雪渓上の石は全部落石なのだから…。
ガスが登ってきて…。
さっきまでは山頂から雪渓を下る下降気流だったから天然のクーラーみたいなものだったけど、
下界の温かい空気が登ってきたから、急に蒸し暑くなってきました。
7:10 : 大雪渓末端
高さ10mはあろうかという大穴が空いていますな。(雪渓の下は沢が流れています。)
気が付かずに末端まで登って崩落したら、良くて骨折、悪けりゃ即死…。
大雪渓をゾロゾロと登ってくる人々。
ここら辺は高山植物のお花畑。
杓子岳。まだ天気はよさそうですが…。
9:15 : 白馬山荘で一休み。
まだ9時だってのに遠くは積乱雲が湧きまくり。
杓子岳もガスに包まれてしまった。
こりゃ今日はカナリの確率で雷がくるなと、さっさと行動しないと危ない。
白馬岳山頂は以前踏んでいるので、今回はパスだ…。
今回の目的はあくまでも不帰ノ嶮の突破。
天気が持つのは明日の朝までだから、なんとしても今日中に天狗山荘まで行かにゃなりません。
10:30 : 杓子岳直下に来たけど、真っ黒なガスに包まれて鳥のさえずりも消えて無音の世界に。
こりゃマズい。一刻も早く小屋へ行かねば!
杓子岳から大雪渓を見下ろしたかったけど、登っても見えないし…。
巻き道をショートカットして鎧ヶ岳へ。
11:30 : 鎧ヶ岳山頂
ここまでは合羽を着なくても何とかなる程度の雨だったけど、一気に降りだしました。
流石に合羽着ると蒸し暑いとか言ってられない量の雨…。
急いで合羽装着。
ますますガスが濃くなって視界10m以下…。
鎧温泉へ下る分岐はどこか分かりますか??と登山者から尋ねられて、
所持していたGPSが大活躍です。
こんな白い砂利だらけの山で、視界が無くなったら私だって心細いし、
GPSは所持しておいて損はありません。
12:00 : なんとか天狗山荘に到着
あと30分早ければ、ここまで濡れなくて良かったのに…。
荷物の整理して、濡れたものは全部乾燥室へ…。
今日は人が少ないから、1区画布団6枚分を1人占めであります。
15:00 : 雨が上がって窓から青空が見えたので散歩へ
唐松岳まで4〜5時間か…。
山では帰宅時間厳守であります(笑)
天狗池。
ここは水がこんこんと湧いているから、水は使い放題です。
後立山稜線の小屋で、ここから南だと水が湧いていないから、縦走する人にとって貴重な水場ですよ。
雷鳥発見!!
おいしそうに草をついばんでいます。
(雛も4羽いました。)
テント場だろうがお構いなし。
さすが、特別天然記念物様です。
人間を恐れていないと言うか、人間がいる方がカラスとかイタチとか接近できないから安全だと理解しているのかも…。
鎧ヶ岳もすっかりガスがとれました。
コレだけ見えていれば全く問題ないのですが…。
あの白い砂利に覆われた広い山頂で視界がなくなったら、どっちに降りていいか分からなくなるのは仕方ないかと…。
17:00 : 夕食
山でこれだけ豪華なものを食べられるのだから、文句なしです。
夕食後は夕日の観察タイム
日没は18時50分だけど、18時頃から雲も観察していろいろ撮影。
太陽を背にした積乱雲。綺麗ですな。
このくらいの時間になると、他の宿泊者も夕日撮影に出てきた。
あの雲って、神だろ!!とか、ミシュランのマスコットだろ!!とかみんなで盛り上がり!
なんだかんだで、山の上だからこそこの景色、今あの雲と夕日を見ているのは自分達数人だけなのだから、
山に来てよかった!!でみんな納得です。
また明日の朝、晴れで無事に顔を出してくれよ〜!
今回、1区画布団6枚を1人占めだし宿泊者も10人で静かだったから、20時過ぎには熟睡してました。
山でこれだけぐっすり寝られたのは初めてですよ。
(隣の唐松岳頂上山荘は、布団1枚に2〜3人だったとか…。人口密度12〜18倍…。オソロシイ…。)
8/1
2:00 : 流石に20時に寝るとこのくらいの時間には目が覚めます。
窓から外を覗いてみると星が出てたので、カメラを持って外へ。
ISO6400、F4、シャッター20秒で撮影…。白い帯が天の川。
人間の目ではどんなに周囲が暗くても見えるのは6等星が限界ですが…。
月が無い夜空でカメラの感度を極限近くまで上げると、個人が持てる機器でも地上からこんなにも星が写るのですよ。
これの一つ一つが全部恒星なのだから、ホントに人間ってちっぽけな存在だよなぁと思い知らされます。
まさに星の海!StarOcean!
剱岳と星空。
見た目では完全真っ暗だけど、明るく写るのは、富山方面の街の灯りが雲を照らしているのではなかろうかと。
それを長時間露光でレンズが拾っているのだと思います…。
4:00 : 月が昇ってきました。
月とオリオン座。
三日月以下の月なのに、カメラだと満月みたいに月の模様まで写るのだから、月は本当に明るい存在だなぁと。
逆に言うと、カメラってのは光を忠実に写すから、それを理解すれば写真撮影が上手くなります。
(一眼レフじゃないときついけど)露出を考えて撮影するようになると、星と月が両方写るような写真も撮影可能です。
さて、パンでも食べて、早々に出発して、日の出を見られそうな場所へ陣取るかと。
4:50 : 天狗の頭で御来光
今日は水平線からではなく、雲からの御来光。
今日もいい天気だ!!
これから通る不帰ノ嶮や、その先の五竜岳もイイ感じにモルゲンロートになっていますな。
剱岳!昨年あの源次郎尾根を登ったなぁと。
黒部ダム。
ホント黒部峡谷は山深い場所にあるものだと。
後立山の山々は、長野側が雪崩に削られて崖みたいな地形。黒部側はゆるい地形だから、黒部側に降りられると思いきや、
下手に降りたら、最後は黒部峡谷の断崖に阻まれるのだから、恐ろしいトラップですよ。
5:40 : ここから天狗の大下り
天狗の頭から不帰キレットの底まで標高差400m(この看板までにゆるやかに100m降りてきているから、ここからだと約300m)
ココから先は一気に標高を落とすので、鎖場の連続です。
後続に追い付かれました。
とりあえず落石の危険が無い場所で退避。
この赤い服の人とは、これから数時間後に、3峰〜唐松岳間でまたすれ違う事になるのですよ。
その際に「あれ??さっき私を抜かしましたよね?? 往復ですか??」と聞いたら、猿倉に車を停めているから往復するのだと…。
私みたいにタクシーで移動ではなく、1日で不帰ノ嶮を往復するツワモノがいるとは驚きです。
6:20 : 不帰キレットの底。標高2411m地点
ここから一峰までは黒部側のゆるい地形を歩くだけなので滑落の心配はありません。
6:40 : 1峰
ここからが本番なので、一休み。
天狗の大下り方面
剱岳方面
これから向かう2峰
6:55 : 1峰〜2峰間のコル
う〜ん、もはやこれは壁ですな…。
鎖を使ってどんどん標高を稼ぐ
こんな所にこんな橋をかけて、ココを一般登山道にしたヤツは頭おかしいと思います(笑)
赤丸が一本橋の位置。崖の中腹ですよ。
唐松から爺さんがやってきたので、通過中の写真を撮らせてもらう事に。
やはり人が写っていると、どんな危険な場所なのか分かりやすいです。
ただ、何度も書いている通り、こんなあからさまな危険個所で落ちるバカはまずいません。
真に危険なのは一見するとなんともなさそうな場所で油断して落ちることだから、
(この写真みたいな場所で、左側の草の上に無意識に足を置くと、崖から生えている草なので、そのままバランス崩して落ちる。)
私も不帰ノ嶮を通過中は全神経を研ぎ澄まして、絶対に油断しないようにしていました。
2峰までもう少し!!
よくここまで登ってきたなと!!
2峰直下。ここを通過すれば、危険地帯は終わりです。
7:40 : 2峰
ここで記念撮影。
ガスに捕まってしまった。今日も早い時間から降りそうですな。先を急ぎます。
8:40 : 唐松岳!
唐松岳直下で雷鳥さん親子発見。
ここ3年雷鳥の声は聞いていたけど、姿は見ていなかっただけに、今回は雷鳥さんの大盤振る舞いだなと
(成鳥4羽、雛10羽見たし)
ガスっているとライチョウを目撃しやすいってのは、やはり本当なのですな。
9:00 : 唐松岳頂上山荘
こんな大きな小屋なのに布団1枚で2〜3人か…。
流石、リフトで中腹まで上がれる八方尾根と、人気な五竜岳へのルート上の小屋なだけあります。
一休みして出発
11:00 : 八方池
晴れていれば、ここから不帰ノ嶮が見えるのだけどねぇ…。
唐松から八方池までは、道が狭いから、リフトの始発時間から登ってくる人とすれ違いの度に足止めくらうので
さながら単線の線路をのんびり進む鈍行列車ですよ。
八方池から先は、道は広いものの、観光客が大量にいるので、結局早く降りられないです…。
11:30 : 八方到着
あとはリフトで降りるだけ!
13:30 : 温泉に入って、腹越しえして、安曇野ICへ。
信号待ちしている際にふと山を見ると
穂高方面が積乱雲に包まれていたので、シャッター押しました。
こんな状態で稜線とかいたら洒落にならんだろうなと思っていたら…。
ちょうど同時刻のレーダー画像が岳沢小屋のブログで取り上げれれていました!!
8/1のブログを読むと、やはり大量に降ったみたいですな。
ぶっちゃけ、今回の山行で一番怖い思いしたのは山の中(不帰ノ嶮)よりも、
岐阜羽島ICから桑名東ICまで一般道でショートカットする際、大雨の中の長良川堤防沿いの運転…。
車の真横あたりの河川敷の樹木に雷が落ちるは(多分、対地雷としては今まで生きてきた中で一番近い落雷)、
道路も轍が川みたいになっていて、対向車が大型車だったら思いっきり水を被るは、
平地を巡航する際の瞬間燃費計の数値が通常の半分程度しか示さない中を延々と運転するは…。
恐怖そのものでした。
(平地なのに瞬間燃費計の数値が圧倒的に悪い = 余計にアクセルを踏んでいる = タイヤがしっかりとグリップしていない。
= 水膜で車体が浮きかけている状態が延々と続いているってこと…。
こんな状態で急ハンドルや急ブレーキ踏んだら一発でアウト。それなのにみんなそこそこ速度出しているから、流れを止めるワケにもいかないし…。
堤防沿いの道路だからほぼ直線なのが救い…。)
やっぱり全体的に大気が相当不安定なのだなと。
GPSログ
核心部の拡大
累積標高+700m程度か。6kmを休憩込み4時間。
これが奥穂〜西穂だと累積1000m越えて、2kmを6時間になるから、
やはり一般登山道では奥穂〜西穂が別格ですな。
何だかんだで色々ありましたが、夏山を思う存分に満喫できてよかったです!!
不帰ノ嶮で危険なのは天狗の大下りと、1峰〜2峰の登り。
その他、確かに長野側は崖なのだけど、あえて自分から長野側へ身を乗り出さない限りは落ちる事は無い。
大キレットを歩ける人なら問題なく歩けるレベルかと思いますよ。