逆白峰三山(二山)縦走
鳳凰三山(観音岳から見た白峰三山)
日本の3000m峰を全制覇する目的で農鳥岳に登り、
農鳥小屋を知らずに日本アルプス登山は語れないので、農鳥小屋宿泊を真の目的として1泊2日で登ってきました。
7月中旬からバスが夏季ダイヤになるので、早朝に広河原を出発できるから、1泊2日でも余裕を持った登山ができるのですが…。
2013年7月10日は、まだ夏季ダイヤ前。
休みの関係上、取れる時間は1泊2日。
雷雨を避けるために昼すぎには行動を止める条件付きで農鳥岳を登り、農鳥小屋にも宿泊し、確実にバスの時間に間に合うまでに降りてきて駐車場の車を回収できるとなると、奈良田から地獄の登りを登るしかないという結論に達しました。
年末帰省時に撮影。
羽田→北九州便から見た今回の登山ルート
注意
※夏の南アルプスは昼すぎには天気が崩れやすい傾向にあります。遅くても14時前には目的地に到着すべきです。
北岳登山のページ を見てもらえば分かりますが、早朝が雲ひとつない快晴でも13時半に雷をくらってます。
富士山にかかる雲は雷の目安になるので、よく観察しながら登ってください。
(一面の雲海なら大気の層が安定している。もくもくと上へ上へ雲が湧きだしたら要注意。)
※奈良田から農鳥小屋までは日本屈指の鬼畜コースです。
標高差は甲斐駒黒戸尾根と同じでも、登山口から一気に登れる甲斐駒と違い、こっちは登山口まで約3km歩かされ、
そこから大門沢小屋まで谷の中を渡渉を繰り返し3時間ほど歩かされたにもかかわらず、小屋の標高はまだ約1700m。
そしてココから一気に3000mまで登らされる…。
一日で到達する事ができるのは、よっぽどな健脚者のみです。
それ相応の登山歴がない場合は大門沢小屋で一泊する計画をたててください。
※夜間の谷地形を進むのはGPS必須です。一度登山道を踏み外したらGPS無しでは日の出まで復帰できません。
このページを参考に深夜出発する場合は、必ず登山用GPSと地形図を所持した上で登ってください。
7月9日
18:10 : 奈良田第二駐車場着。仮眠
第二駐車場は仮設トイレが設置され沢水が湧いていますので、車中泊するには困りません。
(熊よけなのか近隣の林に犬が飼われていて五月蠅かったけど…)
コンビニなど周囲30kmには存在しないので、国道52号線内で食料を購入しておくべきです。
7月10日
1:30 : 奈良田第二駐車場出発。
2:30 : 登山口着
ここまでは林道歩きだから、何も問題無しで辿りつきましたが…。
ここから一変。
幾度となく夜間登山をして強力LEDヘッドライト装備の私でも、常に上を目指せる尾根地形と違い、谷地形は苦戦を強いられる。
途中、渡渉点から枝沢に紛れ込むは、広い林で踏み跡が分からずに登山道から外れるは…。散々ですよ。
完全真っ暗で地図も無意味。現在地ロストで遭難状態。
もしGPS所持してなかったら日の出まで完全に行動不能に陥ってました。
登山道に復帰できているのはGPS所持のおかげ。
(GPSも1m単位で登山道を表示しているワケでもないし、渡渉点の登山道なんてちょくちょく変わってしまうから、GPS所持してても安心はできません。
あくまで登山道の方角を補助的に教えてくれるツールだと思っていて下さい。最終的に登山道に沿って歩くのは人間の感覚が大事です。)
5:20 : すっかり明るくなり安心して登山道を追えるようになった。
大門沢小屋直下の沈んだ橋
ネットの情報では乗っても大丈夫との事だったので、恐るおそる渡る事に
(大門沢小屋の人が、今日修理に行くと行ってたから、もう修復されているかと思いますよ。)
5:45 : 大門沢小屋着
休憩。水を補給していたら宿泊者から「何処まで行くのか?」と尋ねられ…。
「農鳥小屋まで」と答えると…。「小屋番は無愛想なジジイだから気を付けろ」と…。
農鳥小屋到着前から緊張させられる…(笑)
6:00 : ここから怒涛の登りが始まる…。
ただひたすら黙々と登るのみ。
富士山が見えているので、最初にも書いているように天気の観察も怠ってはダメです。
まだ下界が雲海なので、大気は安定している状態ですな。
2600m付近から雪渓が出てきた。
7月初旬の白峰三山は、まだ雪渓が残っているのは当たり前なので、軽アイゼンとピッケル所持しているけれど…。
アイスバーンでもない登りでアイゼンを履くのも面倒なので、ピッケルのみ装備。
(キックステップで登って、もし転倒したらピッケル即刺しで事足りるし)
9:00 : 大門沢下降点到着。
ここまで長かった…。
昔、この下降点が分からずに遭難した人を供養するのと、下降点の目印として塔が建てられてる。
供養の鐘を私も鳴らしました。
梅雨明けしたとはいえ、北日本に梅雨前線がかかっている状態だから、稜線は10m/s以上の強風。注意しながら先を進む…。
10:00 : 農鳥岳着
これで日本の3000m峰17/21制覇。残りは南アルプス南部のみ。
素晴らしい天気と景色ですな
右側は仙丈ケ岳と塩見岳を繋ぐ仙塩尾根。
中央のでっぱりが塩見岳
その左奥が荒川三山の山々。
この見えている範囲は山小屋以外の人工物が一切ないのだから、南アルプスの広大さを思い知らされる。
10:30 : 西農鳥岳が近くに迫ってきた
10:40 : 西農鳥岳着
目の前に間ノ岳と本日のお宿の農鳥小屋。
ちなみに間ノ岳左側付近が大井川の源流点
11:30 : 農鳥小屋着
2chで「ウケケケ 農鳥小屋」とかスレが立てられている意味がなんとなく分かる。
農鳥小屋のオヤジ。
私みたいな一般登山者のレベルを超えていて、常に安全登山を心がけている人間なら、
怒鳴られる事もないだろうと思ってましたが、案の定そうでした。
オヤジ「何か用か?」
私「宿泊したいのですが…」
オヤジ「何処から来た?」
私「奈良田を深夜出発で。」
オヤジ「よく頑張ったな…。」
そこから急速にうちとけました。
(奈良田から標高差2200mを登って11時半に小屋に到着ってのは、マネしようにも普通の人間ではそう簡単にマネできない。
これだけで私が普通の甘っちょろい登山者ではないなと理解してもらうには十分。)
小屋に案内され、コーヒーを出してもらい…。
受付するから待てと。
しばし休憩。
ゴミを持ち帰れない軟弱な登山者は当小屋に相談くださいとか…。
(相談できる勇気があるヤツを見てみたい)
小屋で飼われている犬。
吠えられたという話は多々聞きますが、不思議と私は吠えられなかったです。
(ライチョウの生息域で犬を飼育する事が許されているのだから、ここのオヤジはただものではない。)
しばらく待たされて、受付してもらい…。
ビールを飲むと、トイレに行きたくなるのは必然。
名物トタンのトイレ。
トタンの先は垂れ流し…。
この小屋もトイレさえなんとかすれば、もっと宿泊客が増えると思うものの…。
バイオトイレの維持には莫大な金がかかるし、中々難しい問題でもあります。
常に空を監視し、天気に気を配り、間ノ岳から下山する登山者を監視しているオヤジさん。
怒鳴られた人からすればたまったもんじゃないだろうけど、
こうやって登山者を見て、登山者の安全の為に怒鳴ってくれているのだから、良い人ですよ。
すっかり私もファンになってしまいました。
その怒鳴られた犠牲者。
しっかりと見られているにも関わらず、受付前にテントを張ってしまい、なおかつ15時過ぎて黒い雲が湧きだしているのに農鳥ピストンへ出発…。
逆鱗に触れまくり(笑)
まぁ、2年前に間ノ岳の稜線で雷くらって痛い目を見た自分からしても、黒い雲がわいている中を行動するなど正気の沙汰と思えないし、
こういう登山者にしっかりと怒鳴ってくれる人は中々いません。
17:00 : 夕食
北アルプスの山々の小屋に比べたら質素な食事だけど、3000m峰で温かいご飯とみそ汁が食べられて、ひもじい思いをしないで済むってのは十分に有難い事ですよ。
本来の山小屋ってのは、これくらい質素な食事と不便なのが当たり前。
山に登るからには豪華さは求めてはダメ。
どうしても求めたいのなら、白馬岳にでも行けばいいのです。
18:00 : 深夜に出発した事もあり眠たいので就寝…。
7月11日
3:30 : 起床
富士山は見えてるけど、間ノ岳はガスがかかってる。
風も昨日と同じく10m/s以上の強風。
まぁ多少ガスってても見た感じ天気は良さそうなので問題なし!
4:10 : 朝食
「追い出すなんて言い方するヤツもいるけど、安全登山には出発は早い方がいい」
と、御来光前に食事を作ってくれたオヤジ。
すっかり名前も覚えてもらえて、御来光のベストポジションまで教えてくれた。
口は悪いけど根はめっちゃイイ人ですよ。
御来光。
雲が邪魔で、2年前に北岳山荘で見た時と比べて、そこまで赤くならなかったなと…。
残念。
5:00 : 出発
お礼を言いたかったけど、オヤジは犬の散歩に出かけてしまったので、仕方なく出発。
(早く行った方がいいとオヤジも言ってたし、分かってくれているとは思います。)
間ノ岳は相変わらずガスの中だけど農鳥方面のガスは切れてきた。
さらば農鳥小屋…。
オヤジの血文字風案内。
一部では農鳥フォントと呼ばれいるファンもいるとか…。
ガスが切れて間ノ岳山頂が見えてきた。
6:00 : 間ノ岳到着
北岳山荘から来た登山者から、どっから来たのか?と聞かれた…。
そりゃ北岳と間ノ岳しか登らない人は、間ノ岳から農鳥と熊の平に稜線が分かれていると知らないだろうしねぇ…。
2年前は悪天候で記念写真など撮影している暇がなかったので、今回はじっくり撮影。
小屋からここまで標高差400mあるけど1時間で登っている。
今回の登山では、大門沢から先、常に350〜450m/hのペースで登っているし、3000mの高所でもそれが落ちていないし息苦しくも無い。
すっかり体が高所に馴染んでいる証拠ですな。
北岳方面へ続く3000mの稜線
(間ノ岳から中白根山まで約2.5kmも続く尾根が3000mを越えていて、3000m越えの尾根として長さ日本一。)
2年前はこんなところで雷くらったワケで…。当時は視界不良だったけど、改めて見つめると、その危険さが思い知らされる…。
7:00 : 北岳山荘着
今回はそのまま通過
12時50分の奈良田行きバスを逃すと、奈良田へ行く方法が無くなる…。
今から降りれば余裕で間に合うけど、北岳に登るとなるとギリギリ。
それに、大樺沢の雪渓の状態が不明なので、普通に通行できるものとしてしまうと痛い目を見るので、
余裕を持った行動するという意味で、北岳は今回はパス。
八本歯手前のがけっぷちのトラバース道。
2年前にキタダケソウを見つけた位置を覚えていたので、同じ場所で発見。
ハクサンイチゲの葉っぱの下、丸みを帯びた葉っぱから花が生えているので間違いない。
盗掘されずに残っていてよかった!
8:00 : 大樺沢雪渓上部
北岳山荘の朝食時間からして、北岳山荘泊の人は6時前に出発する事になる。
時間的に1時間差なので降りている人がココから見えてもおかしくないのだけど誰一人としていない。
農鳥のオヤジも「今年の大樺沢はピッケル無いと危ない」と言ってたから、
北岳山荘で「ピッケル無しでは降りるな」とお達しが出ていたのかなと。
立ち入ってみて分かったけど、これ2年前に来た時と違い、雪の状態が悪すぎる。
農鳥のオヤジが言ってたようにピッケル必須。
何度転倒して滑落したことか…。
今回、2200mも登るのにピッケルをかついで行くべきか悩んだけど、備えあれば憂いなしで持ってて正解でした。
それに落石が大量に落ちてるし…。
道中落石が何度も降ってくる…。
(北岳登って時間が足りなくなったらシリセードで滑り降りようとか考えなくて正解だった)
途中、横から声が聞こえてきたので見てみると、北岳の大絶壁にクライマーが…。
中央部分拡大
すげぇ…。私にはあんな真似はできません。
9:30 : 二股分岐
左が大樺沢。右が肩の小屋方面
隣で休憩してた夫婦が肩の小屋へ向かうとか話をしているのを耳にしたけど、
右の岩に書かれている「北岳肩の小屋↑」の表示を確認したにも関わらず、大樺沢方面へ登って行く登山者について行った(笑)
呼び止めようかとも思ったけど、そのまま放置。
まぁ登りに関してはピッケル不要だし、間違った先にも小屋があるから死にはしないし…。
(せめて私に挨拶してくれてたら呼び止めてたと思うけど…)
ああ、素人登山者ってこうやって道を間違うのかと…。
11:30 : 広河原下山
バスの時間が12時50分で余裕があるので、ゆっくり歩いてやっと下山です。
GPSログ
標高ログ初日
標高ログ2日目
農鳥小屋に宿泊せずには、日本アルプス登山は語れないと思い突撃してきましたが、農鳥オヤジと仲良くなれるくらいだから、
私もそれ相応のスキルを持った登山者ってことでしょう(笑)