黒部渓谷下ノ廊下
黒部ダムから欅平まで約30kmを黒部川に沿って歩く道。
大雪に閉ざされるので年に2か月程度しか通行できない。
一応整備されているとはいえ、崖っぷちを延々と歩く事に…。
1泊2日、コースタイムで約14時間、絶対に転倒しない歩行技術と精神力が求められる場でもあります。
そして何よりも9月下旬にならないと通行できないってことは、太陽が登っている時間も短いってことでもあり、
アルペンルート始発から日暮れまで約8時間ちょい。この間に黒部ダムから20km先の小屋まで確実に辿りつかなければならないので、
それなりに山の経験を積んで、己の脚力をきちんと理解している人だけに許される世界です。
注意
※雪の状態により毎年通行可能な時期が異なりますので、事前の情報収集は必須かと思います。
阿曽原温泉小屋にて、主人と問い合わせ電話をしてきた人の会話を横から聞いていましたが、興味本位で電話してきたような人には厳しく接していました。
下ノ廊下に挑戦するからには、やはり一定以上の登山知識は必須です。
十分な経験知識を積んだ上で計画してください。
追記
阿曽原温泉小屋のホームページ 9/26 に書かれている項目を見ると、まさに私が耳にした電話の会話そのままだなと…。)
以下抜粋
※最近、電話の問い合わせが激しくて!!!
(電話器の子機から、火が噴き出しそうな勢いです)
基本的な、小屋・ルート情報や現在の情報はこのページを見ていただければ分かるはずです。
(見ながら電話しています!との方が沢山おられますが、支障や変化があれば直ぐに載せるようにしています!)
先の、天気予報・自分に歩けるでしょうか?等の質問については答えようもありません。
現地の小屋では、特に夕方5時から6時までの間は、夕食をなるべくおいしく食べていただこうと、準備で厨房は戦場状態です。
ご丁寧な問い合わせにも、特に主人は乱暴な応答をすることが間々ありますが、ご理解のほどを!
2014/9/25
17:00 : 相模原出発
台風も過ぎ去ってくれて、夕方には晴れていた。
22:00 : 大町温泉郷観光案内所駐車場着。
ココは綺麗な便所も近くにあるし、酒の自販機も近くにあるし、意外な穴場だなと。
車中泊するにはいい場所を見つけました。
9/26
6:00 : マイカー回送の日星さんへ宇奈月までの回送を依頼。
JAF会員価格で18,000円+宇奈月の駐車場代900円ナリ
本来ならこんなバカ高い回送など依頼しないのだけど、台風で日程を遅らせたので翌日夕方には帰宅しないといけない。
公共交通機関を乗りついで大町まで戻ってきたらその時点で夕方になってしまうので、仕方なく依頼しました。
何が何でも下ノ廊下は歩きたかったので、金は惜しみません。
6:30 : 扇沢まで送迎してもらいました。
送迎中に聞いたけど、前日あの台風の中で2人、下ノ廊下へ入ったらしい…。
雨の中で入るのは落石や転倒のリスクが高すぎるのに、無謀なヤツもいるものだと…。
稜線は紅葉している。いい天気で既に切符売り場には人が並んでいるなと。
7:30 : 始発のトロリーバスでいざ出発。
7:45 : 黒部ダム到着
係員がダム方面へ誘導しているのを無視してトンネルを直進すると下ノ廊下の入口へ
8:00 : 黒部ダムの下まで降りてきた。
この橋で黒部川を渡る。
黒部ダムを下から見上げるってのも珍しい光景。
ここまで観光放水の水しぶきが飛んでくる。
まだこのあたりは何も問題が無い道。紅葉が綺麗ですな。
軽装の爺さんに抜かされて、凄い身軽だけど大丈夫か?と思っていたら、
「私は釣り人だから気にしないでいい、このペース(内蔵助谷まで50分程度で到達)していれば余裕で間に合うから頑張れよ」
と声をかけられた。
雪渓を高巻。
とてもじゃないけど雪渓の上に乗る気はしませんな。
岩と接しているところは2m以上の高さになっているし、登れたとしても、通行中に転倒したら黒部川まで滑り落ちるし。
黒部ダム方面を撮影。
段々と崖っぷちぽくなってきましたな。
大ヘツリの先の高巻き
コレ、高巻しなくても無理矢理行けそうな気もしたものの…。
「崩落の危険があるので高巻してください」と看板に書かれていたので素直に従った。
10:20 :
黒部別山谷を越えたあたり
谷を同じ高さで迂回するから、必然的にU字道が連く…。
崖の上の道を行く登山者。むこうもこっちを撮影していますな(笑)
(ロッジくろよんに宿泊していて、自分よりも早く下ノ廊下へ入っていた登山者を手前で抜かしていた。)
崖が斜めにせりだしているから、ここの通行は要注意。
10:50 :
白竜峡付近
ココは、かがまないと通れない。
※下ノ廊下はヘルメットを装備していたほうが絶対にいいと思います。
特に私みたいに背が高いとなおさら。
20回くらいは岩に頭をぶつけていますが、ヘルメットのおかげで無傷です。
段々と高度が増してきたなと。
2011年秋の地震で崩落した場所。
危険だから立ち止まらずに早く通行しろと。
11:30 :
十字峡
沢が十字に交差するのは珍しい。
欅平への道はまだ長い。
だけど、十字峡の到達目標タイムを12:30にしていたので、この早さは上出来。
約12kmを休憩込みで4時間かからずに歩いているのだから、3km/h以上。
こんな崖っぷちな場所でも、街中を歩くよりちょい遅い程度で歩いているワケで…。
我ながら高さに対する感覚ってのは完全にマヒしているなと。
S字峡手前付近。
物凄い高さだなと。
崖っぷちに片足を出してるお遊びの写真を撮影していると…。
いつの間にか単独行の女性が真後ろに立っていてビビった…。
恥ずかしいところを見られてしまったなと。
先に行ってくださいと、道を譲る。
しかしまぁ、コレって無言で付き落とされてたら完全犯罪成立…。
目撃者がいないし、落下してもこんな場所まで入るヤツはいないから死体も出ないだろうし…。
(仮に悪意が無いにしても、もしも後ろを黙って通行された拍子に接触したら落ちるし)
こういうお遊びの写真を撮影する時は、十分に後方を確認してから撮影せにゃならんと思い知らされましたよ。
黒四発電所手前
登山道に滝がかかっている。
ココはダッシュで突破したけど、それでも時間にして1〜2秒は水を浴びてしまう…。
12:45 :
黒四発電所
こんな峡谷の地下に発電所を建設したのだから凄いなぁと。
黒四発電所先のつり橋
橋のど真ん中にクマの糞が…。
クマも高い所で糞をすると気持ちがいいのか??
13:10 :
仙人ダム
堰堤を渡って
ダムの建物の中へ
通路を歩いて行くと
熱気でレンズが曇ってしまった。
高熱隧道とはよく言ったものですよ。
黒四関電専用軌道
ネットで下ノ廊下を検索するとよく見かける写真。
黒四発電所見学ツアー参加者を乗せた列車がやってきた。
ここで列車に遭遇した写真は珍しいのではないかと。
この機関車、架線も無いし、かと言ってエンジン音はしていないし、バッテリー式か??
ああ、アレに乗せてもらえれば、欅平まで1時間もあれば行けるのに…。
この扉から外へ出るのか…。やっと地上へ出られる。
「尚、この扉でクマの侵入防止を図っておりますので、必ず閉めてください」とな。
「なお」の方を先に書くべきだろ!!と突っ込んでしまった…。
ごっつい扉だなと。
14:10 :
阿曽原温泉小屋
雪崩でぶっ壊れるので冬季は解体するからプレハブ小屋。
ココの主人は富山県の山岳救助隊元隊長さん。
受付時にアルペンルートの始発で来たと言ったら、上出来だと褒められた。
早速温泉へ。温泉は男女1時間毎に入れ替え。
キャンプ場の下あたりにあるのか…。
ちなみに、最近、小屋の近くの木にクマが登っていたから、日が暮れてからは絶対に一人で温泉へ行くなと…。
コインロッカーってあるのか??とか心配していたけど…。
目の届く範囲に服を放り投げておけばいいだけ(笑)
(熱気ムンムンだけど、一応ブルーシートがかかってるトンネルが雨避けにはなってるから、雨の日はあそこで着替えるのか。)
ビールが早く飲みたいのに、風呂上がりにこの登り返しはしんどい…。
今回は1泊2日で荷物に余裕があったので、日本酒を運んできた(笑)
ここの小屋の夕食は18時。
やはり黒部ダムから歩くと遅く到着する人も多いから、他の小屋より1時間遅いのだろうなと。
下ノ廊下が開通してまだ時間が立ってなかったのと平日だったので小屋はガラガラ。12畳部屋に5人だったのでぐっすりと睡眠。
(10月の週末となるとすでに満員で、飛び込みは全員食堂ですし詰めにされて寝る事になるとのこと)
GPSログ
立山連峰と後立山連峰の3000mクラスの稜線に挟まれているココだと、GPSはあまり役立たないなと。
崖を降りて黒部川を渡渉して、また崖を登って…。
こんな軌跡で歩けるヤツなど皆無ですよ。
9/27
4:30 : 起床して準備開始。
5時過ぎには出発できる準備が整ったものの、クマ遭遇のリスクを避ける為に確実に明るくなってから出発する事に。
前日の大町では5時過ぎには完全に明るかったけど、流石に峡谷地形なだけに明るくなったのは大町より30分ほど遅かった。
5:30 : 阿曽原温泉小屋出発。
同時出発した人が小屋の主人から爆竹をもらっており、鳴らしながら進む。
さらば阿曽原温泉小屋
あいかわらず岩をくりぬいて無理矢理通したような道が続く…。
6:50 : 折尾大滝
元北九州市民の私からしたら懐かしい地名だなと。
再開発の為に古い駅舎がぶっ壊されたとつい最近聞いて、残念に思った記憶が…。
折尾谷ちょい先のトンネル
中は泥でグチャグチャ。
(あまりに水位が高いならビニール袋に足を入れて通行しようかと準備はしていたけど、靴に水が入るほど水位は高くなかった)
右手は奥鐘山西壁の大岩壁。
谷底までざっとみても200mはあるなと…。
正面に欅平がちらっと見えてきた。
7:40 : 志合谷のトンネル
天井が低いトンネルで距離も200mくらいある。途中でカーブしているから中は完全真っ暗なので、ヘッドランプ必須です。
(このトンネルだけで5回は頭をぶつけてしまった…。)
対岸の歩いてきた道。あんな岩にクラックが入ってる場所を通行していたのか…。
8:45 : やっと水平歩道終了!
あとは標高差250mほどを降りるだけ。
コレなら9:16始発トロッコ列車に間に合うぞ!
9:05 : 欅平到着
始発に間に合った!
小さな機関車だなと。
コレって、手を伸ばしたら架線に届きそうな気も…。
始発に乗車できたのは正解だった。
すれ違う列車は観光客で満員。
無事に宇奈月到着!あとは運転して帰宅するだけ!
下ノ廊下を通過した感想としては、特に岩を直接登るワケでもないし、整備されているから、ただ崖っぷちを延々と歩くだけなので、
登山としての難易度はそこまで高くないなと感じました。
やっぱ浮石だらけの岩を登り降りする西穂〜奥穂の方が、難易度は遥かに上。
(※西穂奥穂をクリアした私の場合、全ての基準がココになってしまうので、一般人の感覚とズレているのはご了承ください。)
ただ、登山としての難易度は高く無いとはいえ、転倒したら黒部川の谷底へ落ちてしまう事には変わりないので、
1泊2日、計14時間程度「絶対に転ばないで歩く」山歩きの技術と精神力は必須かと思います。
(あの岩は滑りそうだから減速したほうがいいなとか、もしここで滑ったらどうリカバーしようかとか、常に考えながら歩く必要がある)
そして、最初にも書いている通り秋は日が短いから、ある程度の早さで歩くスピードも求められます。
それ相応の力量に達した上で入らないと遭難を招く事になりますので、注意してください。